(告知その4)二次分析研究会・成果報告会「高度経済成長期における福祉の計量社会史」

さて、今年度も東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターの二次分析研究会・課題公募型研究「戦後日本社会における福祉社会の形成過程にかんする計量社会史」の成果報告会が3月28日(火)に予定されています。タイトルは、「高度経済成長期における福祉の計量社会史」となっています。

昨年度からの継続です。1960年代前半に東京大学社会科学研究所(氏原正治郎グループ)が神奈川県民生部の委託により実施していた複数の社会調査を対象に、原票のデジタル復元&データセットの作成&その分析、を実施するプロジェクト。詳細は上記リンク先をご参照ください。今回は「福祉資金行政実態調査」です。プログラムの詳細はこちら(PDF、下記に転記しました)

プログラムの行間からすでに渡邉さんの獅子奮迅ぶりが伝わってくるものと確信しますが、実際の入力・データセット構築作業において発揮されたそれは、その比ではありません。たいへんな労力と才覚とがあって初めてこの短期間でなせるわざだと思います。これは強調して強調しすぎることは決してありません。

橋本健二さん(早稲田大学)の研究グループから継承されている、社研・氏原グループによる戦後労働・社会保障調査の個票を対象としたデジタル化・復元作業は、そのどれもがそれぞれに超弩級の難しさを抱えるものでした。そのなかでも今回の「福祉資金行政実態調査」は、調査個票のなかに、世帯と個人のダイナミックな相互関係が_のちの分析段階における操作的な分節化の方途を必ずしも明確に想定・設計しないまま_埋め込まれている、という性格が強く、たいへん興味深いデータであると同時に、変数化・コード化等の処理の点で、これまでの諸調査と比較しても出色の困難があっただろうと拝察します。これはたいへんな作業です。

この調査は「低所得階層を対象として実施されている母子福祉資金及び世帯更生資金の貸付制度を採り上げ、・・・その行政効果についての実証的研究を行な」ったものです(『昭和37年度福祉資金行政実態調査報告』(神奈川県民生部、1963年)、1頁)。母子福祉資金制度は「事業(開始/継続)」「住宅」「修学」の各資金、世帯更生資金制度は「生業」「住宅」「療養」の各資金、この――「扶助」でも「給付」でもなく――貸付による「効果」、という以前にその利用の「実態」を把握しようとしたものです。ですので、貸付(借受)時点と調査時現在との2時点における世帯状況の変化――このなかに個人の「移動」の反映も埋め込まれているわけですが――と、その「要因」ならびに「帰結」と解釈できそうな情報とが詰め込まれているわけです。一枚(!)の調査票のなかに。

何を言ってるかわからないと思いますが「わかりたい」と望まれる方は、当日第1部における渡邉さんの報告を聞きにいらしてください。

某所のメモより。

ある個人が「生業の世界」と「職業の世界」のどちらに属するのかについての判断自体が文脈依存的に揺らぐ現実、ある個人の労働状況と市場状況とが生家である世帯の経営状況やライフサイクル状況に依存する関係性を生きているなかから〈自律的な個人〉が析出されたり、逆に包摂されたりするダイナミズムの具体的現象が「移動」なのではないだろうか。・・・家族/世帯がその「市場原理」と「組織原理」とを調整しながら戦略的に再生産を図っていくなかで個人が外部に析出されたり内部に包摂されたりする。・・・

もうひとつ、これが3つ目になる氏原グループ・社会保障調査データ(「福祉資金行政実態調査」(1962年実施)、「老齢者生活実態調査」(1963年実施)、「団地居住者生活実態調査」(1965年実施))を繋げて解く鍵のひとつは、おそらく「住宅」なのだろうと思います。とくにこの「福祉資金行政実態調査」では焦点になるのではないかと。これは下記プログラム中の佐藤さんや、今回のプログラムにお名前はありませんが、同じくメンバーの祐成保志さんらによって、当日議論になるところかもしれません。

私はあとに続く具体的なデータ紹介・記述分析の報告の露払いの役を果たすだけですが、まったく別の研究会系列でも戦後日本社会における「自営業社会から雇用社会へ」、「教育と労働と福祉」、「生活構造」、「移動」といった問題群をまとまりを欠きつつ考えてはきているので、そのあたりを少し自分のなかで整理しておきたいと思います。

全体としてややマニアックな話になりますし、「成果(に至る途中経過の)報告会」という性格になると思いますが、自分への備忘まで書き記しました。ご参考まで。

[二次分析研究会2016 課題公募型研究 成果報告会]
高度経済成長期における福祉の計量社会史


日時:2017年3月28日(火)14:00〜16:30
場所:東京大学本郷キャンパス)赤門総合研究棟5階549センター会議室


【第1部】データ復元の概要(14:00〜15:00)
司会:佐藤香東京大学)、コメンテイター:香川めい(東京大学


・「社会調査データの復元による計量社会史の試み」:森直人(筑波大学


・「社会福祉資金実態調査の概要と復元作業」:渡邉大輔(成蹊大学


・「これまでに復元した三調査の比較」:渡邉大輔(成蹊大学


【第2部】福祉資金調査の記述分析(15:15〜16:30)
司会:佐藤香東京大学)、コメンテイター:香川めい(東京大学


・「世帯」:石島健太郎(日本学術振興会


・「修学支援」:白川優治(千葉大学


・「住宅」:佐藤和宏東京大学大学院)


・「困窮」:渡邉大輔(成蹊大学


【総括討論】