EMLS研の現況報告とEMCA者によるご助力への御礼

ここで書き留めておいた記録からすると、研究会を始めて1年が経つようです。

この間、まずは串田秀也・平本毅・林誠『会話分析入門』(勁草書房,2017年)を教科書としてみんなで読んで、「データセッション」――と呼んではみたものの、実際のところそれ以前のそのまた以前レベルぐらいのところで、お互いがどういうフィールドで、どういうデータを分析したいと考えているのかを紹介し見合う会――を並行して進めてきました。学期中は月2回、大学の授業がない期間は月1回のペースで継続しています。

人数は上記エントリ時に比べると少し増えました。私と教科教育学のドクターの院生、教員養成系マスターが3名、その修了生で現職教員(1年目)が2名、その他に社会学の院生が4名(マスター2名・ドクター2名)、そこ出身の大学講師1名と、いずれも筑波関係者でメーリングリスト登録は計12名にまで増えました。

しかし、この間の経緯で特筆すべきは、上記エントリを読んだEMCA(エスノメソドロジー/会話分析)による授業分析の専門家から声をかけていただき、(1)著者ウェブ参加による著書内容を中心とした質疑応答(前掲『会話分析入門』)、(2)著者直接参加による論文内容・研究手続き・データセッションのやり方等に関する質疑応答(論文(PDF)「指導と結びつきうる 「からかい」――「いじり」の相互行為分析」)、(3)授業場面の分析を専門とするEMCA(エスノメソドロジー/会話分析)研究者2名の直接参加によるデータセッション(研究会メンバーの提供データ2種)・およびそのやり方指南、という勉強の機会をご提供いただいたことです。

(1)は『会話分析入門』(勁草書房,2017年)の著者のお一人、平本毅さんに事前に質問文を送付、それへのリプライを文書でいただいたうえで、ウェブ参加による質疑応答に貴重なお時間を割いていただきました。初心者レベルの質問にも懇切丁寧に対応していただき、理解が深まると同時に、やはり実際にEMCA分析をされている方と直接対面する状況で訓練を積むことの重要性を痛感しました。

(2)は論文「指導と結びつきうる 「からかい」――「いじり」の相互行為分析」(『ソシオロジ』58(2): 3-19, 2013年)の著者である團康晃さんに遠路はるばる筑波まで来ていただき、やはり事前に送付した質問文へのリプライに加えて、調査からデータセッション・論文化へと続く流れについて、詳細な資料とともにレクチャーしていただきました。

以上の経緯を踏まえて、(3)では、上述の團さんと、最初に私のブログを読んでご助力をいとわない旨のご連絡をくださった五十嵐素子さんとに筑波までお越しいただき、実際に研究会メンバー提供による動画データを題材としたデータセッションを試みました。まだ場面の切り取りもできていない(=分析方針が固まっていない)段階のデータ提供や、人びとの実践の組み立て手続きを見る前に「大きなお話」へと一足飛びになっている分析方針の提示にも辛抱強くお付き合いくださり、データセッションとは何をどのようにやっていくことなのかを示していただきました。

いずれも、いくら感謝の言葉を重ねても足りないぐらい感謝の想いしかありません。あらためてこの場で御礼申し上げます。ありがとうございました。

まだまだデータセッションという実践を自力で継続可能にするためのセットアップ途中という段階ではありますが、上に述べた方々の献身的なご助力がなければ、これだけの期間でここまで来ることはかないませんでした。EM的・会話分析的に授業場面(やその他の場面)のデータを解読できるようになるには、経験者との対面状況による「訓練」の反復につぐ反復が不可欠です。その点を軽視していたわけではありませんが、実際に一緒にやっていただいて初めて、そのことの「重さ」を体感しました。

ありがたくも、今後も継続的に本研究会とかかわっていただけるとの言葉をいただき、メーリングリストにも新たにEMCA者が1名加わることとなりました(現在登録計13名)。

前掲のエントリにも書きつけているように、最初に研究会の告知をだすのはかなり気が引けたのですが、それが思わぬかたちでこうした縁につながってきました。このところ日本語で書かれた会話分析の入門書やデータ分析が示された著書、それもかなり良質の書物の刊行が続いていますし、EMCA的授業分析の本の刊行予定もあるようです。にもかかわらず、もしかしたら、授業場面の会話分析的な解読に興味がありつつ、自分の周りにはなかなかそうした関心を共有できる環境のない方がいらっしゃるかもしれません。

開催地はつくばに限定されてしまいますが、単発のご参加でもかまいせん。ご関心があれば、本ブログのコメント欄か(承認制なので私にしか読めません)、プロフィールにある twitter アカウントへのダイレクトメッセージ、またはメールアドレスまでご連絡ださい。

この間、社会学の院生が増えた関係で、授業場面以外のデータ提供者の比率が高まってきました。ですが、私たちは元来、エスノメソドロジー/会話分析(EMCA)の基礎の基礎を勉強して、教育領域でいう授業研究に取り込み、「授業場面の相互行為分析」へと展開していく可能性について模索し検討する研究会です。

ここには従来の教育(学)界における「授業研究」へのある種の批判が込められています――授業とは人びとのやりとり(相互行為)を通じて達成される実践である、にもかかわらず、従来の授業研究は「相互行為の分析」になっていない、私たちは授業研究を相互行為分析として展開したい、そのために実践が組織化される過程を記述する「精度」を上げたいと考えている者の集まりです。

引き続き、ご助力いただけるEMCA研究者も募集しております。押しかけお願いもありえます。よろしくお願いいたします。

先のエントリにも書いた文章を再録して、このエントリを閉じます。

教育学、社会学、EMCAはそれぞれ依って立つ学問的基盤において鋭く対立する契機もありますが、そうありながらも対話しつつ、教育実践を解読する水準を引き上げていく道行きへのお付き合いをお願いするしだいです。

会話分析入門

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