地方国立大学の存在意義をかけた奮闘

もともと新聞はとっていないし,引っ越してからはテレビもつないでいないので,宮崎県での口蹄疫拡大続発のニュースがマスメディア上でどの程度のウエイトで報道されているのか,今ひとつピンときていないのですが,宮崎は個人的に縁のある土地でもあるので気になっていました。

宮崎大学農学部獣医学科(とくに獣医衛生学研究室が中心だと思うのですが)が防疫業務に奮闘中です。下記ホームページにて現状報告と広報,要望と指示など,非常にバランスのとれた分かりやすい内容となっています。
宮崎大学農学部獣医衛生学研究室のホームページ

詳細は直接↑ページにてご確認いただきたいのですが,私なりに一部抜粋して以下に記します(太字は森によります)。

早期解決のために皆様のご理解とご協力をお願いします。

宮崎大学農学部獣医学科では、教員、研究員、研究生、大学院生、学生が一丸となって、口蹄疫防疫を応援し、早期の清浄化宣言できるよう努力します。
(5/1〜5/21までの応援態勢、口蹄疫臨戦態勢をとりました。)

消費者の方へ

冷静な対応ありがとうございます。

何ら心配しないで、安心して、牛肉、豚肉を召し上がってください

ただし、日本の畜産の危機です。国内産牛肉、豚肉ができなくなる可能性を秘めた家畜の悪性伝染病です

「家畜の悪性伝染病の広がり防止」のご理解とご協力をお願いします

海外に行った場合など、「最近、牧場には寄っていませんか? 牛や豚には触っていませんか?」とか質問されるかも知れません。それは、国間を移動する旅行者が家畜に伝染病をうつすかも知れない、という用心からです。

また、海外(特に、アジア諸国)で牧場に行った場合など、(帰国後も)3日間は動物に触れない!! など注意しましょう。

人間はこのウイルスに抵抗性ですが、牛や豚は弱いのです

ご協力お願いします。

豚での疑い例が報告されました。日本産牛肉、豚肉の危機です。厳戒態勢をお願いします。

約500万頭処分しなければならなかった1997年の台湾事例では、心筋炎による子豚の死亡報告が相次ぎました。今回は、そうなる前に診断され、防疫措置がとられていましたが、直近、子豚の死亡も観られ始めました。防疫措置が追いつかなくなっています。

防疫措置の人的支援のさらなる強化が始まりました。現場では、疲労の度合いが増し、支援していただく方への配慮がいき届かなくなっています。その点、現況を察して、どうかご理解ください

資材の提供等もお願いします

ゴールが見え、カウントダウンに入らないと、連日、休日返上の防疫員の疲労もピークをとっくに過ぎ、彼ら、彼女ら自身が怪我など事故が起きるのではないかと心配です

口蹄疫防疫作業をお手伝いしていただいた方々へ

宮崎県の口蹄疫発生につきまして、その封込め、蔓延防止のためのお手伝いいただきまして、ありがとうございます。

お手伝いいただきました方々にお願いいたします。今回の防疫業務あるいは皆様の業種によりますが、元の職場に復帰されるまでには、十分な検疫期間を設けてください。また、周囲や上司の方もそのことを十分ご理解ください

よろしくお願いします。

非常に抑制のきいた表現のもとで事態の緊急性を告げるとともに,無用の混乱を避けるための情報開示,協力と理解を求めるための現状報告と,さらには現場で実地業務にあたっているスタッフへの気遣いとに溢れている,非常に的確な呼びかけ文だと思います。

宮崎県にとって牛・豚というのは重要な主産業です。観光と農畜産業以外に目ぼしい地場産業がないなかで,ブランドにもなっている牛などがつぶれると地域経済に大打撃です。また,「風評被害さえ発生しなければ殺処分の痛手なんかはあくまで一時的なもので,それを乗り越えれば産業としてはそのうち必ず復活するでしょ」と部外者は考えてしまいがちですが,現実に存在する個別の畜産業者にとっては事実上「口蹄疫発症=廃業」の等式が成立してしまいますうおそれもあります。

ですから,現在奮闘中の獣医衛生学研究室はじめ宮崎大学農学部獣医学科の方たち(だけではもちろんないですが)は,とにかく宮崎の畜産,ひいては日本の畜産を守るために最小限の被害で防疫ラインを死守しようと,そのことだけを念頭に努力されているわけです。

そのことを十分踏まえたうえで,エントリの標題に戻りたいのですが,これは同時に(地方国立大学への基盤経費が漸次削減されていく現状のもとで)地方国立大学の存在意義をかけた奮闘でもあるように思われます。

直接ホームページに行って確認していただけると分かると思うのですが,実際に業務に当たっているスタッフのうち准教授・助教・院生の一部は本当にほとんど出ずっぱりで防疫業務に当たられています。

私にできる一番ハードルの低い協力は,国産の牛・豚を普段通りに食べ続け(←というのは若干の虚偽申告,やっぱり米国/豪州産の安さには流れますわなw),他の人にも勧めることだと思われますので,少々割高でもここ最近は国産の牛・豚を購入して食べております。

明日は何を作りましょうかね(←私,自炊派です)。最近は一時の寒さと悪天候が影響しているのか野菜も結構割高なのですが,せっかく季節でもあるので春野菜と豚肉のペペロンチーノあたりいっときますか。

久しぶりに連投のエントリでした。
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【追記(2010/5/9)】
本エントリにおいて不適切な表現が2か所ありましたので訂正しました。
(1)宮崎県の口蹄疫被害の現在の状況は「拡大」とよぶべきではなく「続発」という表現が適切との専門家の記述を目にしましたので訂正します。
(2)口蹄疫発生農家へは国費による「手当金」と「互助基金」の制度があり,「発生=廃業」であるかのごとき表現は,それ自体,打撃を受けている畜産農家を精神的に追い詰めるものですので訂正しました。緊急に必要なのは発生農家への心理的ケアとの専門家の指摘がありました。本文中の記述は,最悪の場合に経営上の問題にも繋がりかねないことへの注意喚起という趣旨の言及としてご理解下さい。
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