いただきました。

年度末に向けていろいろと気忙しい。ゆっくり何かを考える余裕がない。こういうとき,実証のフィールドをもっていると助かるなあ,と感じる。とりあえず,体力勝負の調査を進めていれば,なにがしかの“前進”は実感できる(←錯覚,という可能性大ではあるが)。頭のなかを白くして,ひたすら資料を複写したり,入力したり,聞き取り調査の録音を文字起こししたり,調査のスケジュール管理をしたり...

そんななか,先日,東大教育学部川本隆史さんらと夕食をご一緒し(そしてほとんど奢ってもらい←ごちそうさまでした),川本さんからはご著書『双書 哲学塾 共生から』(岩波書店,2008年)を頂戴した。ありがとうございます。

川本さんがいろんなところで読書会等に参加・企画するなかで人のネットワークを築きつつ,今日まで進んでこられたことを実感する。最近とみに思うが,こういうの,人として,研究者として,おそらくは不可欠の素養である(←「人間力」(!))。

東京大学の「教育学」が,「倫理学」を求めざるをえない由縁,というのも本書をつうじて仄かに伝わる(←仄かに,であるが)。微に入り細を穿つ実証研究では突破できない閉塞感の存在。

高校教員の方々のご様子も少しだけ垣間見る機会を得たが,若干のカルチャー・ギャップを感じる。ここ数年,高校教員といえば私立底辺高校で働く方々とばかり接してきたがゆえに。

さて,もう一つ,NHK放送文化研究所(編)『現代日本人の意識構造[第七版]』(日本放送出版協会,2010年)も編集部よりご恵送いただく。ありがとうございます(はまぞうで検索してもまだ第六版までしか出てこない,2月24日時点)。

いわずとしれた,1973年以来5年おきに実施されている「日本人の意識」調査の第8回目を踏まえた第七版の出版。すでに35年間にわたって同様の質問項目の調査結果を追尾できる数少ない貴重なデータ遺産である。本書がうたっている通り,「目には見えない意識についての『定点観測』」(4頁)である。できれば,マイクロデータの一般研究者への公開を伴っているとベストであるのだが。

いずれにせよ,貴重な資料的価値のある著書の公刊である。巻末に単純集計表があるのがよい。こういう加工前の情報が重要であるがゆえに。できれば,マイクロデータの一般研究者への公開を伴っているとベストであるのだが(←くどい)。

それにしても,有効回答の率の低下である。全体で6割を切った。20代にいたっては4割を切った(それぞれ正確には57.5%,39.1%)。ちなみに73年・78年の第1回・第2回調査は78%超,第3回(83年)で75.1%,第4回(88年)71.4%,第5回(93年)70.6%,第6回(98年)67.1%,第7回(03年)61.5%,である。

すでに国勢調査といった官庁調査やSSM調査といった研究者団体の調査でも明白になっていることであって今さらなのだが,深刻な事態である。これだけの回収率のマイクロデータに対して,多層にわたる仮定を置いた複雑な多変量解析をほどこす“意義”というものが問われかねない水準であろう。

やりようがないわけではないと思うが。だがいずれにしても,意識調査のマイクロデータに依拠した「社会意識論」の方法論的バージョンアップは喫緊の課題である。

ネット時代(←笑)を迎えた今日の「言説分析」と同様,分析対象の変容が分析方法そのものに対して刷新を求めてくるという類の再帰性のもとで,社会分析の方法論的彫琢が肝要となってきていると改めて痛感する。

なんか外在的な感想めいたものに留まって恐縮ですが,取り急ぎ,御礼まで。

共生から (双書 哲学塾)

共生から (双書 哲学塾)