やの&あまの

年越し前に2012年の最低限の備忘録。

先日、12月15日(土)に慶応義塾大学三田キャンパスにおいて、赤林英夫先生(慶應義塾大学)が呼びかけ人となり、矢野眞和先生(桜美林大学)との共同幹事という形で「第1回 教育経済・教育政策研究コンフェレンス」が開催され、足を運んできました。プログラムは下記の通りです。

第1回 教育経済・教育政策研究コンフェレンス
【日 時】2012年12月15日(土)9:50~17:35
【会 場】慶應義塾大学三田キャンパス ディスタンスラーニング室


第一部 格差・逸脱と教育政策 座長:濱中淳子(大学入試センター
・日下田岳史(東京大学大学院・日本学術振興会) 「中学生の長期欠席(不登校等)と社会経済的要因・学校教育政策との関連について―市区町村別パネルデータによる計量分析―」
・四方理人(関西大学) 「子どもの学習時間の格差」


第二部 基調講演:座長:矢野眞和(桜美林大学
赤林英夫(慶應義塾大学) 「政策研究のための教育データの現状と日本子どもパネル調査」


第三部 教育の経済価値(前半) 座長:矢野眞和(桜美林大学
・中室牧子(東北大学) ”Estimating the Returns to Education Using a Sample of Twins - The Case of Japan -.”(共著 日本大学・乾友彦)


第三部 教育の経済価値(後半) 座長:小塩 隆士(一橋大学
中村亮介(慶應義塾大学大学院・日本学術振興会) 「高等学校における学習指導要領の長期的効果の分析」
・福元健太郎(学習院大学) “Boundary that Matters?: Casual Inference of the School Quality Effect on Land Prices.”(共著 元筑波大学・吉田あつし)


第四部 国際学力調査と日本の教育政策 座長:赤林英夫(慶應義塾大学
・川口俊明(福岡教育大学) 「学校効果研究は有効な教育政策につながりうるか?-国際学力調査の分析から-」
・北條雅一(新潟大学) 「習熟度別授業と学力および非認知能力」

会場でお会いした方もおっしゃっていましたが、ちょうど一年前に行われた「ミクロ計量経済学的手法による教育政策評価の研究」研究集会と比較すると、各報告が扱っているデータの質が格段に「豪華」になったという印象があります。社会生活基本調査、TIMSS、全国家族調査 (National Family Research of Japan)などの大規模マイクロ・データをはじめ、双生児データなど独自調査データも充実したものが多く、たいへん刺激的な報告が続きました。

前者に関しては最近「統計法」の運用ガイドラインに変更があったこともあり、以前に比べると研究機関に所属する研究者には匿名データ(マイクロ・データ)の利用にあたってかなりハードルが下がったことも背景にあるでしょう。具体的な申請手続き等については今後も各所でさまざまな機会が提供されるでしょうが、近いところでは一橋大学・経済研究所・社会科学統計情報研究センター内の「学術研究・高等教育のための公的統計ミクロデータ利用」のページなどに年明け開催のものの情報もあるようです。

ともあれ、この教育経済学不毛の地(?)日本において、ご自身いわく「“似非”教育経済学」の努力を長きにわたって地道に継続されてきた矢野先生を囲んで、遅まきながら本格的に経済学者たちが(だけじゃなかったですけれども報告者は)教育研究に参入してきた様子を傍から見ているのはなかなか感慨深いものがありました。

長く日本では収益率だとかの教育経済学の話は、経済学者にとっては片手間の対象でしかなく、社会学者にとっては批判の対象でしかなく、教育学者にとっては関係のない話(←笑うところです:正確な文言は矢野先生が昔書いたものにあるのであとで調べる)、という状況が続きましたが、みなさんは片手間でなく本格的に教育経済学を発展させていってください、との矢野先生の閉会の辞をお伝えしておきましょう。

どうでもいい話ですが、昼食を矢野先生とご一緒したときに、「あなた最近なにやってるの? 歴史? ああそう。いや、あなたねえ、自分にしか見えないこと言ってやろうだけじゃなくて誰の目にも見えることもやりなさいよ。どうだお前らこれは見えなかっただろうみたいなさあ(笑)」とゆわれました。

せんせい、そこで見えないものを見る力、ですよ......

と言えるほど図太くはない私。

もう一つ。

それよりさらに先立つ11月上旬には某研究会にて著者をお招きして天野郁夫『大学の誕生(上・下)』(中公新書、2009年)の書評会を開催しました。ということは当然、天野郁夫御大がいらっしゃったというわけです。

まあなんといいますか、さすがに頭髪の白いものなどの数はそりゃ増えたわけですが、肝心の話の中身については1ミリの衰えを感じさせることもなく、長時間にわたって日本の高等教育システム形成の歴史についてのご講義とあいなったということです。第一報告の評者のコメントがどうもスイッチを入れたらしく、レジュメを渡すや否や表情が切り替わる様子に「おおなんやこの感じ覚えてるわあ」とか思ってたら、どうも私が一部多くレジュメを渡してしまったんですね、それでその余分のレジュメを机において指でピシ!!って私のほうに弾くわけ、んでそのレジュメが私んとこまでピューーーって流れてきて、ピタって止まりましたよ、ええ、私の前で。

お前は西部劇にでてくるガンマンか。

いやほらなんか、飲み屋のカウンターかなんかでバーボンのグラスをスーっ、みたいな。

なんかよくわかりませんが。

しかし第一コメントは天野先生だけでなく第二コメントの報告者のスイッチも入れていただけたような、そんな報告でたいへんよい会に盛り上がりました。ありがとうございます。ちなみに、あの分厚い新書2冊の話を、それでもこっちは消化不良のまんまなんとか話についていってたのに途中で「いやじつはぼくもう次の本書いたんだけど(1600枚)」てさらっと御大の口からでたときには揺れたよ。揺れたね。なにがかはわからんけど揺れた。うん。

どうでもいいことですが、天野先生は東大で「高等教育概論」という講義を担当されていました。私が学部生のときです。私はほぼ全回出席していてノートもばっちりとっていて(1回だけ欠席したようで、その回は友人のノートのコピーになってる)、今もそれは自分の研究室に保管してあるのでそれを当日もっていきました。シラバスとともに。

天野先生にとってもそれは忘却の彼方だったようで興味深そうに眺めていただきましたが、どうも天野先生は人生において「高等教育概論」という講義を2回しか担当されていない(東大に講座を作って最初の2年間は自分で担当したが、学部長になったこともあり3年目からは金子元久先生に替わっている)ということが判明。

どうやら私の手元にある講義録はそこそこ貴重な資料であるらしく、その話を本ブログでも少し展開しようと思っていたのですが、そんなヒマはなかったようです。

とりあえず、もう何年かして早稲田のヤ○○ヰあたりにもっていったらいくらで買ってくれるだろうか、とそんなことを思いつつ大晦日を迎えんとしている2012年、冬。

よいお年を。

大学の誕生〈上〉帝国大学の時代 (中公新書)

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大学の誕生〈下〉大学への挑戦 (中公新書)

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