言葉たちの葬送(1)「システム」――20世紀教育-社会システム

たぶん5,6年ほど前に何かの拍子で書き留めていたメモ。パソコンの中身の掃除してたらでてきた。参考文献は,まあ,雰囲気で,ね。

日本社会に〈20世紀教育‐社会システム〉とでもよぶべきものが措定できるのではないか。そのシステムの形成と変容のプロセスにおいて顕在化した現象の顕著さと画期の明確さとにおいて,近代学校教育制度の輸入元であった欧米先進諸国のそれをはるかに凌ぐのではないか。だとしたら,それはなぜ,どのようにして可能であったのか。また,近年指摘される日本の教育‐社会の実態についての地殻変動はこのシステムが根本的に変質し次のフェイズへと移行しつつあることを意味するのか,それとも,これまでにも経験されてきたシステム内調整過程の一環にすぎないのか――近年の教育社会学の研究蓄積は,そうしたことを考えさせる。


このシステムは学校教育を連結基として,あまねく大衆から人材を吸収し,あるいは少なくともそう擬装することで学校教育への大衆の欲望を喚起しつづけ,のち吸収した人材をしかるべき社会的地位へと配分する。そうすることで社会秩序の変動を最小限に抑えながら,急速で効率的な経済発展を可能にしてきた。もちろん,こうしたシステムもその端緒では実質的にごく一部の限られた層のみにしか開かれていなかったが,やがてその後に趨勢的に展開していく原型が形作られた。1980年代以降の歴史社会学的な教育研究の蓄積は,その画期を明治30年代後半=19-20世紀転換期に求めることで一致している(天野1992,竹内1991など)。


他方で,1990年代後半(=20-21世紀転換期)以降の教育社会学研究の関心は,同時的に生起しつつあった高卒無業者層や「フリーター」の増大に強く焦点づけられ,そこにそれまでのシステムの不可欠の構成要素であった「教育熱」「教育アスピレーション」の低下ないし階層分化(=学校教育への大衆の欲望の変質)と,学校から職業へのスムーズな移行の衰退現象(=人材配分システムの機能不全)とをみてとった(苅谷2002,耳塚2000など)。


〈20世紀教育-社会システム〉がその原型の形成から基底的な変容を指摘されるまでの約1世紀のあいだ日本社会の発展を可能にしてきたという認識に立ったうえで,近年の表層的な教育-社会現象の背後にあるシステム持続的な側面とシステム変容的側面とを分節した理解を目指す必要があるのではないか。例えば学校から職業への移行システムについては近年その根本的変質が指摘されているが(佐藤(粒来)2004,本田2005など),景気回復と団塊世代の大量退職を背景にして従来的移行システムがそのまま復活しつつある側面も無視できない。何が本当に変容し何が持続しているのか,大きな歴史的パースペクティヴに準拠したうえでの現状分析と政策提言とが求められている。


〈20世紀教育‐社会システム〉は次の2つを主たる構成要素とするものと考える。第1に,システムの連結基たる学校教育への大衆の欲望の普遍性,すなわち学歴主義の沸騰である。これは他方で教育達成の階層間格差が一貫して維持されたプロセスでもあるため,階層的再生産の事実にもかかわらずその問題が社会的に捨象されたプロセスとセットで解明される必要があるだろう。第2に,日本に顕著な学卒後の職業への「間断なき/スムーズな移行」に象徴される,マクロなシステムのパターン維持をミクロレベルで繋いでいる個人の移動の絶えざる構造化のプロセスである。個人の移行/移動への学校教育の関与が直接的であるほどシステムとしての自律性は高く,移動の斉一性が高いほどシステムの安定性が高いとみなしうる。


〈20世紀教育‐社会システム〉の時期区分を以下の5段階におく。(1)萌芽期:学歴主義の原型が誕生した1900-10年代,(2)形成期:都市社会階層が被雇用者として自律的な生活構造を各々形成するとともに,学卒時移行システムも大企業を母胎として誕生しつつあった1920-30年代,(3)調整期:1940-50年代の戦時体制〜戦後の混乱・復興期は歴史的撹乱期ではなく,システム形成の観点からは重要な調整過程であったことが指摘されるだろう。さらに(4)展開期:当該システムの黄金期という位置づけが可能である1960-80年代と続いて,近年の(5)変容期:1990年代以降,として把握しておく。

平和に生きている皆さんの知らないところで今日,社会学のお兄さんたちによって多くの言葉たちが遠くに連れ去られて行きました。しばらく帰ってこれません。「プラティーク」はもうダメです。「プラティック」も同様です。「ハビトゥス」はぎりぎりで助かりました。「リスク社会」は死にました。「社会的相互作用」はもともといなかったみたいです。どれも教育社会学が大好きな言葉たちばかりでぼくはかなしいです。

ついったーってこわいですね(←冗談)。

ということで,「システム」も早めに捨てておく。途中,意味不明だしw 念のため申し添えれば,↑これ,羞恥プ 自虐ですから。まじめに受け止められると,ぼくは困る。