何のために実践を見るのか

某日、シクレルの読書会に参加した。たいへん有意義だった。再読となった文献もさることながら、シクレルのもとで勉強された某先生が何気なく漏らされる(昔の)お話をとても興味深く拝聴した。これまで欠席が続いたことを悔いた。世話役の方のご都合により、この読書会ももうすぐ終わるようである。残念だ。

当日読んだのは Language Use and School Performance から K. Leiter によるCh.2 “Ad hocing in the school: A study of placement practices in the kindergartens of two schools” である。これは竹内洋の『日本のメリトクラシー:構造と心性』(東京大学出版会、1995年)第1章の先行研究レビュー(34-38頁あたり)に引かれているので知られているだろう。1974年の論文。

竹内のライター批判は、ほぼ Karabel & Halsey(1977) を踏襲しており、(マクロな(?))「社会構造と関連づけられていない」のがダメだという。教育社会学では比較的見なれた光景だが、わざわざ(それほど目立ってもてはやされたわけでもないだろう論考を)取り上げて論評しているのだから高く評価しているともとれる。

実際、あらためてライターの論文を読み返してみると、冒頭でこそ「エスノメソドロジーの視角を採用する」と宣言されているが(「が」ってこともないが)、伝統的(?)な教育社会学とも「通じ合う」余地の多い研究、というか今ならふつうによくできた学校エスノグラフィとして読まれそうな感じの書きぶりである。

教師が子どもとのやりとりを通じて、彼ら/彼女らをいくつかの社会的類型に振り分けていくことが、子どもの出自(インプット)と達成(アウトプット)、つまり選抜と配分の帰結を媒介している――というぐらいに読まれたのだろうと思うがそんなのは読む方の勝手な期待の投影であって、実際にはそんなことをやるとはライターは言っていないし、実際に行われているのも教師が「どのように」子どもをクラスに振り分けているかの実践の記述であってそれのみである(記述の精度はいまエスノメソドロジーとして読まれるものの精密さには遠く及ばない)。

教師がなにか学校や教室のなかでやっていること――実践――が、選抜と配分(インプット‐アウトプット)の結果(階級や民族などの出自による不平等)をもたらす重要な要因――スループット――として効いているよ、そこのところがこれまで「ブラックボックス」になっていたからちゃんと実践をみよう、というオーソドックスな教育社会学の研究方針は「実践をみる(記述する)」という自ら設定したはずの課題をあらかじめ裏切ることになる。

これまでのオーソドックスな教育社会学は、つまるところ社会化と選抜・配分という「(学校)教育の(社会的)機能」を問うてきた。それはまず、永々とつながる実践のつらなりをどこかで「切断」し――その切断は「メンバー」によるそれに準拠することもあれば「観察者」が「恣意的」に持ち込むこともあるだろう――、切り分けられたAと別に切り分けられてあるBとを「メンバーの方法」とは違ったやりかたで接続させる/関連づける記述の実践だと言ってよい。AとBとは前もって「切断」されているので、そのかぎりで「別もの」である。別のものの接続/関連づけが行われるには、A/B双方を包括する同一の地平が仮構される必要がある、というか滑り入り込んでくる。

教育社会学で求められる/高く評価される記述とは、意外で(=「メンバーの方法」とは異なり)_かつ/だけれども_理解可能な記述、ということになる。そういうルールのゲームである。話には「オチ」が必要だというわけだ。それは必然的に――と言ってしまってよいと思うが――、AとかBそのもの(AとかBがいかに可能になっているのか)の記述には焦点化しない。あらかじめ、その課題からの離脱が約束されている。なにせAとBを「接続させる/関連づける」ことが主眼のゲームなのだ。そういうゲームの世界では、AとかBそのもの――AとかBの実践がいかに可能になっているのか――の記述への志向は、「オチがない!ヽ(`Д´)ノプンプン」と怒られてしまうか、そうでなければ「なにがしたいのかわからない (゚Д゚?)」と当惑されるはめになるだろう。

知らんけど。

さて、ここからもう少し書くことがあったのだが――そのために書き始めたはずなのだが――、疲れているのでこの辺で切り上げる。つまり、このエントリにもオチはない。

思わせぶりなタイトルでごめんなさい。<(_ _)>

Language Use and School Performance

Language Use and School Performance

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