2015年度 二次分析研究会 成果報告会

年度末が近づいてきました。ここ数年、東京大学社会科学研究所が神奈川県民生部の委託により1960年代前半に実施していた複数の社会調査を、原票のデジタル復元&データセットの作成&分析する研究会にかかわっており、今年度も例により1年間の成果報告会が開催されます。一部未定の部分はありますが、こちらにプログラム(PDF)が公開されています(下記に転載しました)。

すでに拙ブログで公開済みのエントリに書いてきたように、社研・氏原正治郎グループによる調査の復元作業については、橋本健二さん(早稲田大学)を代表とする研究グループが、1951年実施の「京浜工業地帯調査」や1952年実施の「貧困層の形成(静岡)調査」、さらに1961年実施の「『ボーダー・ライン層』調査」に着手して以来、相澤真一さん(中京大学)を実質的な作業リーダーとしてノウハウの蓄積・展開と作業の推進を図ってきました。すでに分析結果の公刊が進みつつありますが、「京浜工業地帯調査」にかんしては橋本健二編『戦後日本社会の誕生』(弘文堂、2015年)に二次分析の成果の一部が反映されていますし、相澤さんが中心となって上記「貧困調査」系の成果の一部を含む著書の刊行も近いと聞いています。

その第二ステージとして、一昨年度・昨年度は「団地居住者生活実態調査」、今年度は「老齢者生活実態調査」および「福祉資金行政実態調査」の復元&二次分析の作業が着手されています。東大社研の労働調査は神奈川県との関係性のなかで多く実施されています――その背景に、氏原の恩師で研究グループの理論的リーダーであった大河内一男が1951年に内山岩太郎・神奈川県知事(1947〜67年)の顧問に就任したことがあった点について、橋本編(前掲)所収の仁田道夫「戦後労働調査の時代――氏原正治郎の足跡からたどる」に言及があります――が、たとえば「京浜工業地帯調査」や、あるいは苅谷剛彦・菅山真次・石田浩編『学校・職安と労働市場』(東京大学出版会、2000年)に二次分析の成果の一部が反映されている「新規学卒者(中卒)労働市場調査」(1953年実施)が神奈川県企画審議室の依頼なのに対して、上述の「『ボーダー・ライン層』調査」(1961年実施)から「福祉資金行政実態調査」(1962年実施)「老齢者生活実態調査」(1963年実施)社会福祉意識調査(ソーシャル・ニーズ調査)」(1964年実施)「団地居住者生活実態調査」(1965年実施)までの一連の調査は神奈川県民生部の委託によるものです。

われわれが復元作業に着手しているのは、この東大社研と神奈川県民生部との連携のもとで1960年代前半に毎年立てつづけに実施された調査――労働調査論研究会編『戦後日本の労働調査』(東京大学出版会、1970年)の分類でいうと「貧困・社会保障」のカテゴリーに入る諸調査です。そして、この第二ステージの復元作業からは、ひきつづき相澤さんを中核メンバーの一人としつつ、しかし作業指揮・遂行の実質的な中心は渡邉大輔さん(成蹊大学)に移っているというべきでしょう。今年度の本研究会も「戦後日本社会における福祉社会の形成過程にかんする計量社会史」と題し、渡邉さんを代表として組織されています。作業を組織・指示する明晰さ――もちろん「分析」の局面でも――と、実際に作業を進めるバイタリティは驚異的です。さらに、彼の指揮のもとで原票の撮影からデータの入力、コーディングなど実際の作業を担当している成蹊大学の学生諸君の優秀さたるや!――「団地」のときにはもっとグダグダな監督者(つまり森)のもとで筑波の学生さんも奮闘してくれました(^O^)/。ともあれ、神奈川県民生部委託による1960年代前半実施の東大社研・氏原グループの調査が後世に分析可能な遺産として受け継がれるのは、渡邉さん(と彼のもとにあった学生たち)による貢献、その献身的な作業の賜物だということは銘記されなければなりません。

とはいえ、作業量は膨大。今年度の報告会は、統計的な二次分析としては単純な集計レベルのものとなりそうです(が、第3部の報告者のラインナップを前にして油断してるとヤケドするぜ、たぶん)。他方で、われわれは当時実際に調査にかかわった研究者への聞き取りをはじめとして、一連の東大社研=神奈川県民生部調査を、日本における各種の社会調査・労働調査・貧困調査・福祉調査が分岐・展開してく流れや、あるいはもっと広く日本社会の歴史的文脈のもとに位置づけ直す作業も並行して進めています。前掲の労働調査論研究会編以外にも、たとえば山本潔さんが『日本の労働調査――1945〜2000年』(東京大学出版会、2004年)などで社研調査に史的検討を加えておりますが――労働研究者ですから当たり前ですけれど――見事なまでに「労働」調査のみに関心が限定されていて、氏原調査が有していた包括性/総合性(別言すれば未分化性)は俎上に載せられていません。今年度はこの復元作業も一定の蓄積を達しつつあるという認識から、こうした側面にウエイトを置いた報告会となるでしょう。

「社会調査史」プロパーではありません。他方で、「社会調査」と「それに必要だったもの(技法・技術、人員・組織、資金、理論・学説など)」に照準しているという面では、たとえば日米社会学史茶話会の関心にも通じるものがありますが、あそこの議論ほどの射程の広さや包括性があるかというと、それも難しい。われわれの研究会の最大の特徴は、「調査史」的読解をしつつ、同時に、データを復元し・さらに実際に分析する、この《調査分析》の二重性にあるのではないかと考えます。当時の技術的な制約から、研究者の頭にアイディアはあってもできなかった分析があるでしょう。他方で、当時の技術的な制約ゆえに、アイディアのもちようがなかったという分析もあるでしょう。われわれの二次分析=計量社会史の試みは、当時の研究者が何を考え、どのように調査を組織・実践したか、に重ねて、現在のテクノロジーのもとで可能になった分析手法を実際にデータに適用したらどのような知見が得られるのか、そこまで議論の射程がのびているのです。

報告は一人15分ほどと短いものを重ねます。それら報告を繋ぎあわせながらフロア全体として一つの議論が展開していくような場になればよいなと思います。私の報告はといいますと、・・・・・・と、もうだいぶ長くなりましたし仕事もいろいろ溜まっておりますのでこのへんで。

ご関心の向きはぜひ。

[二次分析研究会2015 課題公募型研究 成果報告会]
高度経済成長期の労働・福祉・老齢者調査


日時:2016年3月14日(月)13:00〜17:30
会場:東京大学本郷キャンパス 赤門総合研究棟 5階 センター会議室


司会:佐藤香東京大学


【第1部】歴史のなかの老齢者・福祉調査(13:00〜14:20)
コメンテータ:野口典子(中京大学


■ 調査対象としての老齢者
報告者:渡邉大輔(成蹊大学


■ 福祉調査と「老齢者調査」
報告者:羅佳(日本福祉大学


■ 労働・福祉・老齢調査における社会階層と生活構造
報告者:森直人(筑波大学


■ 高度経済成長期の生活構造調査
報告者:佐藤和宏東京大学


休憩(14:20〜14:30)


【第2部】老齢者・福祉調査の射程(14:30〜15:40)
コメンテータ: 未定


■ 児童問題と社会調査
報告者:白川優治(千葉大学


■社研労働調査資料の中の「老齢者調査」・福祉資金調査
報告者:相澤真一(中京大学


■「老齢者調査」の概要/設計
報告者:渡邉大輔(成蹊大学


休憩(15:40〜15:50)


【第3部】「老齢者調査」の紹介(15:50〜17:30)
コメンテータ: 野口典子(中京大学


■ 家族と世帯
報告者:石島健太郎(東京大学日本学術振興会


■ 仕事と退職・引退
報告者:渡邉大輔(成蹊大学


■ 経済状況
報告者:相澤真一(中京大学


総括討論 コメンテータ: 未定

戦後日本社会の誕生

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戦後日本の労働調査

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日本の労働調査―1945~2000年

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学校・職安と労働市場―戦後新規学卒市場の制度化過程

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