どうしてもやってしまう。

大学の専任の教員になって2年目の冬にえらいインフルエンザに罹った。ん? あれ? なんか体調おかしくね? と思う間もなく猛烈な悪寒が全身を襲い、体中の節々は痛み、炎上したブログのページビュー・カウンターのごときスピードで熱は上がる。一度経験したから知ってる(炎上)。40度近くまでいった(体温)。あかん。死ぬ。これはもう生命の危機を感じるレベル。当時職場の関係で離れて暮らしてたうちの奥さんにエマージェンシーコールで来てもらう。

ふだんならなんの支障もなく歩いて行ける距離にある内科までたどり着けそうもない。2人とも車を運転しないのでタクシーを呼ばざるをえないが、こんな思っきしインフル症状で公共交通機関に乗るのもどうか。とか言ってられない。マスク2重のキッチン用アルコール消毒スプレー片手にタクシーに乗り込む。咳はもちろん、なるべく息もしない。いやそれは無理。どこにも素手で触らず降りる。

受付で即「インフルっぽいです」の自己申告で隔離された待合室にゴー。粘膜をごにょごにょやって検査。ビンゴ。タミフルを処方されたのは後にも先にもこのときだけだが、あれは偉大だ。服用して寝て汗をかくと、すぐウソみたいに熱が下がる。

それで懲りたので、次から毎年11月にはインフルエンザの予防接種を受けるようにした。この仕事は結構学生さんからうつされる。というか、こちらがうつす側にまわるのはまずい。とくに前の職場は学生がみんな無理な体調をおしてでも授業にでてきちゃうし。講義の3分の1以上欠席で期末の受験資格を失う、とか学則に書く大学が悪い。それでいて介護等体験実習ってやつはちょっとでも体調に異変があると行かせてもらえず、いろいろ履修上めんどいことになるので余計に。いまの職場もキャンパス内の宿舎に住む学生が多く、流行が始まるとどうにも。そして毎年流行はくる。

予防接種に1000円の補助がでた年もあったがすぐなくなった。あれは補助すべき。というか「経費」。こう見えて風邪をひきやすい体質で、それまでひとシーズンに2回とかふつうに風邪をひいていたが、予防接種を受けるようになってからなぜかまったく風邪もひかなくなった。体調がすこぶるよい。なのでちょっと毎年の注射がクセになった。プラシーボ。

私は生活の基盤が2か所あるが、自分の職場のある自治体よりもう一個のとこのほうが500円ほど値段が安いので、毎年そっちで打つ。最初の年、どこの病院にしようか迷う。どこでもいいのだが、街中の便利なところにあって昔好きだった兄弟プロレスラー(誰だよ)に似てる名前のクリニックを選ぶ。これがプロレスラーみたいな名前によらず(だから誰だよ)、たいへん上品で物静かな感じの白髪の老先生が一人で診ている。若い頃は女性にもモテたんじゃないか。地元の進学校からKO大学の医学部をでてUターンで開業。って待合室の院長略歴に書いてあったが、なんとなく納得。

変に高飛車な物言いもなく、老先生は淡々と、粛々と問診票を確認し、注射へ。

「どちらでも、好きなほうの腕をだして、袖をめくってください」と、静かに老先生。

まあ右利きだしな。左腕をだして、袖をめくり、先生に対して直角に構える。

「アルコール、少し染みるかもしれません」と言って老先生、私の左腕をおさえながら注射する部分をアルコールで消毒。

そしてここだ。

「はい、力を抜いて。手は腰にあててください」

ってところで、いっっっ...(略)...っっっつも、右手を右腰に あてちゃうんだよなあ。

想像してほしい。「老先生へならえ」みたい体勢になる。

「そうじゃないですね、これをこう 」って老先生もさすがにちょっと声を張って私の左手をとり、肘を曲げ、左腰にあてがう。

あ、ああ、こっちね、これね、そりゃそうですね。。。

ってあれ、どーーーしてもやっちゃうんだよ。 毎年。

っていう話。