振り込み

学生時代、親から仕送りをもらっていた時期があった。自動送金サービスじゃなくて、毎月決まった日に、親が直接ATMまで行って振り込んでいたと思う。

逆の立場になった今、自分も自動送金サービスを使わずに、毎月、直接ATMまで行って振り込んでいる。

やってみたことがある人ならわかってくれると思うが、毎月、必ず、「忘れない」というのは、じつは結構、たいへんなことだ。

自分ひとりの生活にも追われる日々に、毎月、ずっと、である。

仕送りしてくれた期間、親は一度も忘れたことがなかった。きちんと、毎月、機械のごとく、同じ日に振り込まれた。

私は仕送りするようになってからこれまで、三回ぐらい所定の日を過ぎ、(とても気兼ねした)「督促」を受けてしまったことがある。

昔、西原理恵子の漫画で、親に捨てられた子が、ふとしたことで、自分を捨てた(と思い込んでいた)親が、幼い自分宛てに毎月振り込みしていたことを示す預金通帳をみつける場面があった。

5000円とか1万円とか、とても生活の足しになる額ではなかったが、毎月毎月、振り込まれてあった。

「ああ おれは、おやじに捨てられたんじゃなかったんだ。」

額ではなく、毎月、忘れず、振り込みに行く親の姿をたぶん思い浮かべて、その子は泣いた。

それから少しく長じたその子もまた、自分が養うと決意をした人を養うべく、毎月振り込む人になろうと努力した。

だが彼は続かなかった。

嗤ったり、バカにしたりしないでほしい。毎月、必ず、忘れず、ずっと振り込む人になるというのは、じつは結構、たいへんなことなのだ。