オヨヨ書林・せせらぎ通り店をよろしく!

突然なんですけど、中学時代の友人(♀)が金沢で古本屋を始めました。オヨヨ書林・せせらぎ通り店といいます。

もともと金沢・竪町にあった本店ののれん分けみたいなものでしょうか。話を聞く限り「キッチン南海」方式に近いのではないかと勝手に推測しています(別に「修行」したとかそういうわけではありません、もちろん)。

本店さんのほうはもとはネット古書店として開業(99年)、04年に東京は根津に店舗を構え、その後青山に移転、現在は金沢・竪町で営業されているそうです。ちょっと変わった店名は小林信彦「オヨヨ」シリーズから。

さて、そのせせらぎ通り店ですが、金沢駅から中心街・香林坊へと向かう途中、金沢城跡・兼六園を背後に負う尾山神社の境内から鳥居下の階段を下りていき、大通りも渡って長土塀の武家屋敷に至る手前、店名にもとられている市内用水のせせらぎの音もさわやかな場所に店を構えています。おっされーな感じのカフェ隣、威風あたりを払う和風建築校舎の中央小学校の向かい、バスケ部時代に通いつめたハンダスポーツ(←昔からある本店のほうな!)のすぐ近くです。

お店のホームページには金沢駅から徒歩20分とありますが、中央図書館・公園を突っ切って三谷産業の社屋を横目に歩いていけば15分もかかりません(ナビウォークでその道が検索されるので大丈夫!)。観光で訪れた街歩きに慣れない人は金沢駅からバスに乗って「南町」(2番目か3番目のバス停ですけど)で降りてください。

ここの記事にもある通り、店舗はもともと大正時代に鉄工所として使われていたレトロな建物を改装したもの。約100平方メートルの店内は、高い吹き抜けの開放的な空間に高さ3メートルの本棚が設置されています。建物の外観はさすがに年季が入った印象ですが、一歩店内に足を踏み入れると柱や梁は黒系のシックな色調に塗り替えられ、落ち着きと開放感あふれる店内の一角には子どもも退屈しないよう絵本コーナーが子ども用の椅子と一緒に設えてあります。

記事にはされていませんが、このあたりもう少し詳細を付け加えると、建築年は大正6年、街を歩いていた(のちに店長となる)わが同級生が偶然みつけた「貸します」の看板に魅入られて入っていくと、なんと大家は同じく中学時代の同級生X(♀)のお父ちゃん。話はとんとん拍子に進んで開店の運びになったとか。その同級生の曽祖父にあたる人物が大正6年に鉄工所として始めた事業も大成功、そのとき建てたものが今でも使われていると、そういうことだそうです。

で、この同級生Xの話をし始めると実はもう少しおおごとになって(=話が膨らんで)しまうのでw、ここはこれまで。

入口付近、隣のカフェと連なる部分にはガラス張りのスペースがまだ何も置かれないまま確保されているので、これからお店が落ち着いてきたら、コーヒーでもいただきながら店内の古本に目を通すことのできる読書スペースでも作られるかもしれません。

営業時間は11時〜19時。年中無休。〒 920-0865 石川県金沢市長町 1-6-11 tel/fax:076-255-0619。買い取りの受け付けはフリーダイヤル(TEL 0120-618-044)でも。文芸書、思想、社会科学、絵本など扱っていますが、今のところ、ジャンルとしては、文芸・思想・詩などがメインでしょう。タテマチ店のほうはアート系が充実してそうですね。

ちなみに私が先日お店(せせらぎ通り店)に初めて顔を出した折には、やはり仕事柄、社会科学系の棚の前に長く陣取り、検討の結果、増山太助『検証 占領期の労働運動』(れんが書房新社、1993年)を2000円、丸山眞男『現代政治の思想と行動(上・下)』(未来社、1956年初版)を上下で800円のはずのところ、なぜかトータル2500円で購入させていただきました。

安いと思います。

金沢近辺の古本好き、古建築好きのマニアの方は一見の価値ありです。マニアでない方も街歩きの途中でゆったりとした時間を過ごすには最適です。金沢に観光で訪れた際にも、ぜひ足を運んでください。私が金沢で育ったころには街中にいくつもあった、生活の必需からは距離があるけれど、お洒落で、豊かな時間を過ごすことができる空間を、今に蘇らせている素敵なお店です。

地方都市におけるロードサイドビジネスの横行、旧中心街・繁華街衰退のうねりは、古都・金沢も例外ではありません。戦災を免れた旧市街にめぐらされた細く曲がりくねった道を遠くあざ笑うかのように環状線がぶち抜かれ、ショッピングモールが林立し、かつては「若者の街」と謳われ、週末になると金沢周辺はもちろん富山・福井からの人も溢れた「竪町」にもテナントが埋まらないビルが目立ち、昔の面影はありません。

私らが中高生の頃は、とりあえず彼氏・彼女ができたら竪町に行くもんだから、すぐに「あ、あいつ、あいつと付き合い始めたんやあ、そうなんやあ、そっかあ...」という悲喜こもごものドラマが繰り広げられたもんですよあなた(遠い目)。あと服、服買いに行こ、今度の修学旅行、私服でOKやから服買いに行こ竪町に、ってなるから修学旅行の前とか同級生で通りがあふれているとかw あと(当時はまだ週休1日の時代だから)土曜の午後とか制服着て歩いてると覆面補導(別に覆面してないけど)に駆り出されてるどっか他の中学の先生に呼び止められたりとか...(昔話)

今、しかも古本屋という形で開店し、店を維持していくことは大変な苦労を伴うことでしょう。それでも私は、この古本屋には生き延びてほしいと思う。自分の友人がやっているから、ということを超えて、こういう雰囲気を宿した店は金沢に残るべきだと、私は思う。

便利とか、機能性だけが価値ではない。この世にはなくなっていいものと、なくなってはならない、いや少なくともなくならないほうがよい時間や空間というものがある。オヨヨ書林は後者を体現しているお店だと、私は思う。

始まったばかりの古本屋です。大量の書籍に埋もれて苦しんでいる私とご同業のみなさん、ぜひとも本を処分する際はオヨヨ書林せせらぎ通り店をよろしく! 段ボールに入れて着払いでお送りいただければ、よきにはからいますゆえに。

ちなみに、ここの店長さんであるところの彼女は私と私の奥さんが一緒になる重要なきっかけになった人なので、興味がある人は(いるのかよ)お店に足を運んでレジで支払う瞬間にでもその話を聞いてもいいですよ。ご購入いただいた特典として、特別に許可します。

聞きたければ、の話だが。

私も今度帰郷した際には、タテマチ店まで足を伸ばしてみることにいたしましょう。

みなさん、オヨヨをよろしく!

【追記(2011/6/22】
こっちの写真のほうが綺麗やんけー。