高校進路選択研究3部作,「功罪」2部作
教員免許更新講習・選択科目「若年労働市場の変容と進路指導」のため,酒井朗(編)(2007)『進学支援の教育臨床社会学――商業高校におけるアクションリサーチ』勁草書房,望月由起(2007)『進路形成に対する「在り方生き方指導」の功罪――高校進路指導の社会学』東信堂,荒川葉『「夢追い」型進路形成の功罪――高校改革の社会学』東信堂,を予習中.なかでも酒井さん編の1冊はなかなか野心作でいいと思います.これまでなかったスタンスの研究で,とりわけ酒井さん執筆箇所のそこかしこに,これまでの教育社会学――とくに高校教育を対象とした学校社会学,あるいはもっと直截にいえば苅谷剛彦先生の世代が80〜90年代にテンプレートを作成したタイプの学校社会学――に対する批判意識が垣間見られます.
分析的であることは必ずしも現場の改善にとってポジティブな影響を持つとは限らないということである。元来,教育社会学では実証的なデータに基づく分析と考察が重視されてきた。(中略)しかし,研究成果が実践に与える意味や影響を重視する視点から考えると,そうした言説が単なる研究上の知見というレベルを超えて社会的意味合いを帯びていく点を同時に考慮しなければならない。階層間格差が拡大しているという指摘は,それがマスコミで喧伝されるに従い,「動かしがたい現実」として人々の「常識」を構成する。したがって,研究が単にそうした構造の指摘だけに終始し,その打開策につながるヒントを併せて提示するのではなければ,それは人々をペシミズムへと追い立てることとなり,格差社会の中で負け組にならないようにと,人々を駆り立てることになる。(17頁)
こうした叙述の背後には,学習内容3割減の学習指導要領改訂とリンクさせて苅谷先生が問題提起した「意欲格差社会」的言説が実際の社会的文脈のもとで果たした効果――進学熱心層の家庭がより一層,私的教育投資への傾斜を強め,結果として投資総量の階層間格差が拡大したという事実(それほど明確なエビデンスを私自身は確認していませんが)――への反省意識が透けてみえます.
また,
今求められているのは,しっかりした「教育の論理」の構築である。……「教育の論理」とは,教育する側,その立場は教師であったりそれ以外の支援者であったりすると思われるが,その側が,その生徒に対する願いとその実現のための手だてを,経験と専門性の裏打ちのもとに構想したものである。……生徒たちにのしかかる構造的な困難の現状を踏まえつつ,教える者の専門性や経験に裏打ちされた「教育の論理」の構想力が問われている。(244頁)
“××という善意にもとづいた「教育的論理」が実際には○○な意図せざる帰結をもたらしています”式の――教育の世界の自明性を疑う視線,というテンプレート――教育社会学のスタンス(それをもっとも華麗に手際よく実践して見せたのが苅谷剛彦だった)そのものが,もはやそれだけでは陳腐化してしまった言説状況というものを冷徹に認識し,それ以外のオルタナティヴな言説実践を構想しようとする意思をここには感じます.「教育の論理」という言表の位置価が,苅谷剛彦(1991)『学校・職業・選抜の社会学』(東大出版会)におけるそれから大きく変動していることに注目すべきでしょう.
こうした問題提起は大きな検討課題をいくつも提供しているように思います.実証研究が言説効果や政策実現の可能性をどこまで事前に織り込んでなされるべきなのか.なしうるものなのか.
とはいえ,新しいスタンスを前面にだした野心作であることは間違いない.
それに対比すると,あとの2作がいずれも「功罪」という書名を冠しているのは象徴的です.特定の理念や教育的論理にもとづいた政策導入→事実の分析→「功罪」の指摘,というのは,80〜90年代型学校社会学のテンプレートを忠実になぞっています(だからダメだとか,だから良いとかいう話ではなく).
とくに荒川さんのほうは「ASUC職業」という面白い進路志望のネーミングとあいまって,なかなか興味深いものがあります(なんて読めばいいの? アサック? アスック? 誰か教えてください).
講習が終わったころに,現職教員の方の反応とからめて改めてエントリします.
今日はこれからZepp Nagoyaでくるりライブに参戦.2戦目なり.
進学支援の教育臨床社会学―商業高校におけるアクションリサーチ
- 作者: 酒井朗
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進路形成に対する「在り方生き方指導」の功罪―高校進路指導の社会学
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