「3.11」後の比較教育社会史研究、討論と批判

もうだいぶ時間が経ってしまって今さら感満載なのだが、やはりブログには残しておこうと思う。比較教育社会史研究会という研究者ネットワークが今年で10年の節目を迎えた。毎年春と秋に研究会大会がある。毎年5月には『比較教育社会史研究会通信』なるものが…

肯定すること

「教育」とは権力の作動であるとかの用語系で語る言説に、もはや新たなインパクトなど皆無であろう。だがそれでもなお、「教育」をそのようなものとして認識しつづけることには実践的な意義もある。「自己肯定感」とか「自己効力感」というのは、人が成長し…

文句があるならオレに言え

それは,その学校にとって本当に大変な,長い一日だった。その小学校に勤める教師にとって――なかでも,少しでもよりよい実践をと日々懸命に努力していればいるほど,そういう教師にとって。そしてもちろん,その小学校に通う子どもにとって――なかでも,子ど…

生活変動仮説

中川清『日本都市の生活変動』(勁草書房,2000年)の生活変動仮説。冗長にはなるのだが,私はいちいち生活構造‐変動仮説,と呼び直す。環境変動への抵抗の枠組み(=生活構造)が析出されて‐そののち‐その変動の軌跡がトレースされる,のであって,単なる生…

何年ぶりかの完全徹夜。

気がつけば,もう1ヶ月も更新がなかったわけである。ここのところ,結構な頻度で東海地方の小学校へと調査出張に出かけておるわけで,正直,そんなブログとかいってる余裕もない。調査途中であるわけで,具体的なあれこれをブログごときで語れるわけもないの…

「戦後教育の問題」の所在

2学期の授業も始まり,なんやかやと慌ただしいなかブログの更新は滞りがちになる。正直,twitterというサービスの誕生は,(少なくとも私程度の人間にとっては)ブログの有用性を有意に低める(笑)。ブログに書いていた程度のことはツイッターでつぶやける…

交錯するパラドクス(5節=最終回)――職業訓練論が提起する「非教育の論理」との対話

8月7日(土)に明治大学で開催される「非教育を考える懇談会」予稿集に寄稿した文章です。最終回の今日は5節と参考文献。あとは明日の懇談会を待つのみです。いろいろと詰めどころ満載の拙い中間報告ではありましたが,最後までお付き合いくださり,ありがと…

交錯するパラドクス(4節2項)――職業訓練論が提起する「非教育の論理」との対話

8月7日(土)に明治大学で開催される「非教育を考える懇談会」予稿集に寄稿した文章,4回目の今日は4節2項。最近,本ブログでブツブツつぶやいていた内容のとりあえず中間報告的な内容です。なお,懇談会の開始時刻は13:30に変更です。 交錯するパラドクス―…

交錯するパラドクス(4節1項)――職業訓練論が提起する「非教育の論理」との対話

ちょっと4節は分量もありますし,1項はテクニカルな話も入るので,細かく刻んでアップします。8月7日(土)に明治大学で開催される「非教育を考える懇談会」予稿集に寄稿した文章,3回目の今日は4節の第1項のみ。参考文献の全体は最終日に。今日は関連するも…

交錯するパラドクス(3節)――職業訓練論が提起する「非教育の論理」との対話

8月7日(土)に明治大学で開催される「非教育を考える懇談会」予稿集に寄稿した文章です。2回目の今日は3節。5回の連載のなかで,ここが一番分量的に膨らんでしまいますが,3項に分かれていますので休み休みご笑覧ください。 交錯するパラドクス――職業訓練論…

交錯するパラドクス(1節・2節)――職業訓練論が提起する「非教育の論理」との対話

8月7日(土)に明治大学で開催される「非教育を考える懇談会」予稿集に寄稿した文章です。1回目の今日は1節・2節。2節の内容は本ブログをこまめにチェックしていただいている方には既読の内容が続きます。あしからず。 交錯するパラドクス――職業訓練論が提起…

捩じれの思想家(?)・佐々木輝雄

結局のところ,問題は,「教育の機会均等」の実質的な保障に関する方法論上の対立をどのように超克するか/しうるか,というところにある。実践上の課題――一斉教授様式/個別化・個性化教育学習――として,そしてまた,制度設計上の課題――単線型学校教育制度“…

「僕達の職業訓練」とは何か――佐々木輝雄講義録より

むかし,いまから15年ほど前,その被差別部落は日本でも有数の大規模部落であったが,1990年代半ばのその時点で私がそこに行ったとき,その地区で現役の高校生は1人しかいなかった。中卒で働くか,高校に入学したとしても1学期のうちに退学するのが通例だっ…

大学教育の記憶

「最近の学生は勉強しない」「非常識だ(受講態度や勉学姿勢その他に関して)」「学力が低下している」「こんなこともできない」「あんなこともできない」...(以下省略)...とぶつぶつ言ってる大学教員がいた場合,ほぼ例外なく,その大学教員のほう…

言葉たちの葬送(1)「システム」――20世紀教育-社会システム

たぶん5,6年ほど前に何かの拍子で書き留めていたメモ。パソコンの中身の掃除してたらでてきた。参考文献は,まあ,雰囲気で,ね。 日本社会に〈20世紀教育‐社会システム〉とでもよぶべきものが措定できるのではないか。そのシステムの形成と変容のプロセス…

辺境性と境界人性――あるいはブログ名の由来について

ご無沙汰しておりました(←挨拶)。むかし,大学院にあがりたての頃,日本教育社会学会の学会誌『教育社会学研究』の創刊号から当時の最新号までの全「活字」を読破する,という無意味な企てを実行してしまったことがある。全「活字」というのは,論文はもち…

拙稿ご紹介

昨日は件の研究会でした。1日頭を使い続けるという機会が少なくなっていたところに寝不足のまま朝から夜の飲み会まで“祝祭”が続きましたので,いささかならず疲れましたが,ま気持ちのよい疲れです。関係者のみなさま,お疲れさまでした。そのとき少しだけ話…

ねじれの補足。

連休中は故あってフーコーの精読をしておった。思ったよりもはかどらなかったが,いたしかたない。当分,この作業を続けないといかんだろうなぁ,と思う。いま思い立ったが,いっそのことこれからは「遅れてきたフーコディアン」を名乗ろう......かと…

四六答申と教育学

ゆっておくが,これは教育学「もどき」の書きなぐったメモである。昭和42(1967)年に諮問され昭和46(1971)年に答申が出された中教審の「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」,いわゆる「四六答申」といえば,1990年代初…

「読むこと」「書くこと」の社会史の問題領域

※しばらく,このエントリをトップに置くことにしました.新しいのは下にきます.ご了承ください.※ お蔵出し.識字と読書―リテラシーの比較社会史 (叢書・比較教育社会史)作者: 松塚俊三,八鍬友広出版社/メーカー: 昭和堂発売日: 2010/02メディア: 単行本購…

「大学紛争」と「オープン教育」:備忘

書くべきエントリを書く間もないまま,しかし急いで備忘のために書きなぐっておきたいことができた。丁寧に書く時間もないし,ブログで書くようなレベルの話でもない。もっと大きなまとまった形で描くべき全体のパズルの示す図柄が,ぼんやりとだが,しかし…

「異学年型教科センター方式」とは何か?(2):ちょっとブレイク

待たれよ,次回...とまで言っておいてなんなんだお前は,ということではあるが。至民中学校の「異学年型教科センター方式」とは何か,それは「教科センター方式」と「異学年型クラスター制」との組み合わせ式教育実践である,ということは,いただいたパ…

「異学年型教科センター方式」とは何か?(1):っていうか,その前に「教科センター方式」とは何だ?

最初に言うとくけど,長いよ,今回。 至民中 北陸本線・福井駅から南西に7キロ弱,車で20分ほど走り,人家や商店街,街道沿いの大型店舗などから離れて田んぼが広がるなかを少し行くと小高い丘陵のふもとまで来る。その里山の尾根部分の斜面を削って平地にし…

社会移動と知識/技能修得(1)

教育社会学の教科書をひも解けば,教育社会学が分析の対象とする(学校)教育の社会的機能として「社会化」機能/「選抜・配分」機能/「正当化」機能の3つが挙げられている(か,前2者のみが挙げられている)だろう。そのうち教育社会学の発展の原動力とな…

教育の「個性化」「自由化」は必ず「教育の格差」を拡大させるか?

↑まあ,「個性(化)」とか「自由(化)」という言葉をどういう意味で用いるか,に依存するわけだが。昨日,日本の個別化・個性化教育のメッカ(?)愛知県東浦町にある小学校まで出向き,研究授業(というのとも若干違う趣旨の授業公開だったんだけど)を見…

「給食費未納」分は「子ども手当」から天引きするかもの件

鳩山首相が山梨県での自治体首長との懇談後,首長側からの要望を受け,給食費滞納世帯については未納分を「子ども手当」から天引きする形で対応する方向で法案を見直す可能性に言及したようです。私は長期的には,「生まれてきた以上,〈生まれ〉によらずど…

ありやなしや,と

ブログ界隈で地味〜で堅実な資料調査をされている歴史家の様子を垣間見るにつけ,そういう作業がなんにもできていない最近の自分が悲しくなるのであった。ま,ぼく歴史家じゃないっすけど。そんなこんなで現在の職場でやるべきすべての講義を終えた。最後の…

(理論科研の予習をかねて)戦後日本の社会構想

高原基彰(2009)『現代日本の転機―『自由』と『安定』のジレンマ』日本放送出版協会.いただいてからずいぶんほっぽってたので(すみません)...「73年の転機」以降を「現代日本」と把握する見方というのは“あり”かもしれん.国際的に普遍的な動向と日本…

「農家の長男」の野中広務

さて,進学から就職までのプロセスをどのように経験したかは,その後の人生に大きな影響を及ぼす.客観的な社会移動の軌跡に影響を及ぼすというだけでなく,最近の研究では社会に対する信頼感や価値観にも影を落とすことなどが実証的に明らかにされているら…

野中広務の「教育の歴史社会学」的スケッチ,その2

魚住昭『野中広務 差別と権力』(講談社文庫)である.ある意味,野中氏が今あるような文脈で「解読」される欲望の対象となることを決定づけたノンフィクション作品.もちろん,その延長上にここ数日の本ブログでの「筆遊び」もあるわけだが.本書のもととな…